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飛べない白鳥の世話をするペンキ屋さん

[2010年6月号掲載記事]

広井吉信さん

毎年、10月ごろになると、さまざまな渡り鳥が日本列島へ飛んできます。冬のシベリアではえさをとることができなくなるため、鳥たちは食料を求め、暖かい日本に移動してくるのです。3,000~4,000キロを約2週間かけて、ユーラシア大陸から飛んできます。

日本海に面した新潟県新発田市に「升潟」という湖があります。ここにも、10月から4月にかけて数百羽の白鳥がやってきて、春になるとシベリアへ帰ります。しかしそのなかに、ずっと升潟に留まる一羽の白鳥がいます。10年ほど前に大けがをし、右の翼を失ってしまったため、飛ぶことができないからです。けがの原因は、地元の人も知りません。

升潟には、多くの水草がおいしげる湿地もあります。低い山に囲まれて風や暑さを防ぐことができるので、飛べなくなった白鳥が厳しい日本の夏を過ごすためには、よい条件がそろっています。しかし、自然のえさだけで生きのびることは困難なため、現地の人々にずっと支えられてきました。

40年にわたり塗装店を営む広井吉信さんは、雨の日も風の日も、そして雪が降る厳しい冬であっても、毎朝、仕事の前に升潟へやってきて、けがをした白鳥に食事を与え続けています。

広井さんは、若いときから升潟の周りを散歩する習慣があります。10年前の朝、いつものように散歩をしていたとき、傷ついた白鳥に食パンを与えている女性に出会いました。そこで、広井さんはお米を与えることにしました。冬になると、田んぼでえさを探している白鳥を見ていた広井さんは、飛べなくなった白鳥にも、他の白鳥たちと同じえさを食べさせてあげたいと思ったのです。

広井さんはこの白鳥のために、「いりご」という、熟していない米を農業協同組合や農家から買いました。いりごは軽くて水に浮くので、白鳥が食べるには最適だと思ったのです。価格は、30キロ2,500円程度で、白鳥の食事としては5日分。今では、近所の農家の人たちが「白鳥に食べさせて」と持ってきてくれることも多いといいます。

この10年間、何人もの人たちが、この白鳥にえさを与えにきましたが、ずっと続けているのは広井さんだけです。ある日、広井さんは仕事の用事があり、いつもより升潟へ行くのが遅くなってしまいました。広井さんが着いたとき、白鳥は岸に上がり、広井さんのくる方向をじっと見つめて立って待っていました。広井さんは、遅くなって申し訳ないと思いましたが、野生の白鳥が自分を待っていてくれたことに深く感動しました。

広井さんは、熱をこめて語ります。「こうしてえさを与えはじめた以上、私には責任があるんです。白鳥の寿命は24年くらいです。この白鳥も、多分あと10年は生きるでしょう。私が先か、白鳥が先かはわかりませんが、この白鳥が死ぬまで面倒をみるつもりです」。

春、仲間たちが北へ帰っていくとき、負傷した白鳥は何度も飛ぼうとしますが、片方の翼では、わずか2メートルしか飛べません。その姿を10年間も見ている広井さんは、「何だかかわいそうでね。一度でいいから故郷のシベリアに帰らせてあげたいですね」と言います。

さらに広井さんは、升潟で出会った人たちとともに「山彦会」と名付けたサークルを作り、旅行に行ったり、食事をしたりしてコミュニケーションをはかっています。白鳥に食事を与える広井さんを見て入会した人もいます。「このけがをした白鳥が、たくさんの人との出会いをもたらしてくれたのですよ」と、広井さんは言います。

あるとき、広井さんがいつものように白鳥にえさをあげていると、見知らぬ人から声をかけられて塗装の仕事を頼まれたことがありました。日本には「鶴の恩返し」という昔話がありますが、広井さんにとっては、まさに恩返しが起きたのです。

広井さんは、ボランティアで白鳥の世話をしているのですが、結果として、白鳥に助けてもらったことも多いと言います。「生きていることはお互い様。みんなで仲良くしたいね」。そう語る広井さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいました。広井さんが守ってくれる升潟の飛べない白鳥は、今日も皆に愛されています。

文:浜田実弥子


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