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北斎が生きた江戸を見る

[2015年5月号掲載記事]

201505-9-1

百日紅上巻表紙。杉浦日向子著。筑摩書房発行

百日紅

東京が江戸と呼ばれていた頃、浮世絵師として活躍した葛飾北斎と、娘お栄の暮らしを描いた物語です。江戸風俗研究家でもあった作者、杉浦日向子の知識を活かして、当時の文化や庶民の生活がていねいに描かれています。タイトルの百日紅は、初夏から秋まで百日間花が咲く植物のことです。作者は、花の重みで枝が曲がるほど咲き、花を散らせてはまた咲かせ続ける百日紅の生命力が、北斎に重なったと語っています。漫画サンデーにて1983年から1987年まで連載されました。

時は1814 年、年の瀬が近い冬の朝、北斎とお栄が住む長屋に弟子の一人である池田善次郎が飛び込んできます。面倒はお断りだと文句を言うお栄に、善次郎は「女の生首を見た」と絵を手渡します。武家屋敷の門前に置かれた生首を描き写してきたのです。北斎は自分も見たかったと悔しがり、気晴らしに善次郎を連れて出かけます。

途中で川へ身を投げる男を目撃し、善次郎がその男を助けたことから、生首事件の真相が明らかになります。首の主は男が仕えていた武士の家の娘でした。娘は身分違いの恋をして仲を引きさかれたうえに、愛した人を死罪にされてしまいました。そして後を追って命を絶ったのです。二人の仲を主人に告げ口したのが、身投げした男でした。彼は娘の首を門前に供え、自分もまた死のうとしていたのです。

北斎は驚きもせず、あっさりと男を出家させて苦しみを断ち切ってやります。決して相手の気持ちに寄りそってなぐさめたり、心を軽くする言葉をかけるような思いやりを表には出しません。こうした北斎の振る舞いは、湿っぽさを嫌がる江戸っ子ならではの気質です。

口が悪くて気が短く、妻がいながら女弟子と関係を持ちます。絵を描く様子が見たいと将軍に招かれれば、いいところを見せようとして失敗する。人間くさい変人ぶりが、いきいきと描かれます。

北斎のキャラクターに加え、江戸の町で暮らす人々が細やかに描写されているのも本作の魅力です。生活感にあふれた話の中に、動き出す死人や妖怪の出てくる話が混じっています。医療が発達しておらず、地震や飢饉も起こった時代です。死はとても身近にあり、この世とあの世は隣り合って存在していました。現実と幻想を隔てる壁は薄く、人間も異形の者たちも、たやすく互いの世界を行き来します。

物語の終盤で、北斎の幼い娘が病気で亡くなったのを、長屋に吹き付ける強風が知らせます。そこでは悲しみよりも、去っていく命のはかなさが表現されています。同時に死をひどく恐れる北斎の思いも語られます。本作の中で唯一、北斎が弱さを見せる場面です。歴史に名を残す偉大な絵師としての姿だけでなく、川村鉄蔵という一人の人間としての北斎と、彼の生きた江戸を見ることができる作品です。

文:服田恵美子


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