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難民から会社社長へ

[2010年5月号掲載記事]

メトラン株式会社社長
トラン・ゴック・フック/新田一福さん

埼玉県川口市にある株式会社メトランは、医療器械を開発する会社です。特に、とても小さく生まれた赤ちゃんのための器械を作ることにかけては、すばらしい技術を持っています。2009年には埼玉県から「渋沢栄一ベンチャードリーム大賞」をもらいました。このメトランの社長はトラン・ゴック・フック(日本名:新田一福)さんです。

フックさんは1947年にベトナムで生まれました。高校へはほとんど行かず、映画を見に行ったり空手をしたりしていました。「言い訳みたいだけれど、当時は戦争中でしたから。ぼくもいつか戦争で死ぬと思っていましたから、やりたいことを全部やって、あとは哲学の本をたくさん読みました。生きること、死ぬことについて知りたかったんです」。

空手や哲学を通じて、フックさんは日本に関心を持ちました。「ぼくは今でもみんなに言うんですよ。日本は、義理や人情という東洋哲学の宝物を大事に守って現代へ伝えてくれた国だ、とね。だから留学先に日本を選んだんです」。1968年に日本へ来て、東海大学に入りました。

卒業後は泉工医科工業株式会社という、医療の器械を作る会社に、研修生として入りました。すぐに器械を作る能力を見せて、まわりを驚かせます。「当時の道具は今より危なくて、慣れない人はよくけがをしたんです。だから道具を作り変えて、指を切らないようにしました」。

古くからいる職人たちはフックさんのくふうが気に入りませんでした。彼らは、技術はけがをしたり時間をかけたりしながら学ぶべきだ、と思っていました。「ぼくは2年で技術を学んで、ベトナムへ帰らなければいけません。だから『ぼくには時間がありません』と言いました。職人たちは怒って、『あいつは外国人だから』と悪く言いました。でもほめてくれた人もたくさんいました。『おかげでけがをしなくなりました』と」。

1975年、北ベトナムが勝って戦争が終わりました。南ベトナム出身のフックさんにとっては、帰る国がなくなってしまいました。フックさんはすでに満子さんと結婚していて、「いつか二人でベトナムに工場をつくろう」と考えていましたが、人生の計画を変えて日本で生きていくことにしました。そして泉工の正社員になりました。そのころには会社のみんなが、フックさんの能力を認めていました。

1984年には会社メトランをつくって独立しました。会社をやめたときにもらったお金をすべて使って、新しい器械を作りました。体の弱い赤ちゃんのための、呼吸を助ける器械です。これがアメリカで「すばらしい器械だ」と言われ、大成功をおさめました。しかし、手のひらよりも小さく生まれた子を器械で無理に助けていいのかと悩んだこともありました。

その後、日本の景気は悪くなりました。長い間フックさんの器械を売っていた会社が突然、もう受け取らないと言いました。そのとき器械は、すでに30台ほどができあがっていて、数千万円かかっていました。

「長年つきあってきた人たちに裏切られてしまって、めまいがしました。しかも悪いことに、その会社の社員たちは本当の事情を知りませんでした。みんなは、私が裏切って他の会社と契約したのだ、と考えました。『これまでおまえの器械を一生懸命売ってきたのに。お前は悪いやつだ』と言いました。とてもつらい時期でした」。

この経験からフックさんは、他の会社がまねできない技術を持っていないと、小さな企業は身を守れないと考えるようになりました。「それに、義理や人情はお金があるときだけのものだ、ということもね」。フックさんはそれまで以上にがんばりました。そして去年メトランは、眠っているときに呼吸が止まってしまう人のための器械を作りだしました。これは、日本ではメトランしか作れない器械です。

1986年、フックさんは18年ぶりにベトナムへ帰りました。戦争のあと、ずっと会えなかった親や兄弟に会うことができました。今では、ベトナムにも工場を持っています。「ベトナムは私の生まれた国ですから、お返しがしたかったのです。私たちのグループで、約1,500人の職場ができました。私にはこれくらいの力しかありませんが、それで助かる人がいるのならばさらに多くの人を助けたいと思います」とフックさんは、ベトナムへの思いを語ります。

でも今のフックさんにとって、住んでいる日本が「自分の国」です。「自分の国ですから、日本の今後が気になります。日本をもっとよくしたいですね」。フックさんは今、高齢化が進む日本のために、お年寄りの役にたつ器械を作ろうとしています。

株式会社メトラン

文:砂崎 良


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