日本をより理解するための傑作記事(ひらがなタイムズ誌面より)
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リードのない犬

ウィニフレッド・バードさん

2006年のあるさわやかな夏の夜、私と婚約者の慶太、数人の友達、そして私たちの犬リップのみんなで、家から熊野海岸(三重県)まで20分のドライブをしました。毎年行われる市主催の世界的な花火大会を見に行ったのです。

大勢の観客に混ざって小さい石の多い砂浜に腰を下ろしたとき、リップは人間のように花火を楽しめないのではないかと心配しました。しかし、リップのことを心配する必要はありませんでした。その夜は海のほうをほとんど見なかったので、頭上のすばらしい光のシャワーに気づかなかったのです。

私たちの数メートル先にいたかっこいい20代ぐらいの女性二人も、花火大会よりほかのことに気を取られていました。それは、私たちの犬です。彼女たちはリップを自分たちの毛布の中に誘い込み、少なくとも20分ほど携帯電話でリップの写真をとっていました。ショーが終わり、人々が帰りだしたので、彼女たちも渋々リップと別れました。

これはよくあることでした。慶太と私が行くところではどこでも、犬のほうが注目されました。ひとつの理由は、金色の毛、ピンと立った耳、カールした尻尾、穏やかな顔だと思います。リップは、わたしたちのどちらよりもとっても可愛らしいのです。

自分をかわいがってくれそうな人なら誰にでも、覆い被さるようにして、なでてもらおうとします。そうやって多くの友達を作りました。彼女が注目されるほかの理由としては、リードでつながれていないことです。これは日本では珍しいことです。

でも、私の婚約者は普通の日本人男性ではありません。11年前に彼がリップを飼ったとき、彼はリップと約束をしました。「私の言うことを聞けば散歩のときもひもでつないだりしない」と。私が彼にそのようにしたわけを聞いたところ、彼は「リップがそんな顔をしていたんだ。人に怖がられないような犬に育てられると思っていた」と、彼は言いました。たくさん訓練した数年後、彼らは今でもあの約束を守っています。

彼らは初めの7年間はお米や野菜を作る農家で過ごしていたので、リードなしでも楽でした。リップはねずみの穴を見張ったり、田んぼの泥の中で涼んだり、友達や近所の人達に可愛がられて日々を過ごしていました。しかし、3年前に松阪市に越してきました。私は一年後に一緒に住むようになりました。

私たちはすぐに、町でリードのない犬は好ましく見られていないことに気づきました。近所のほとんどの人は、犬を一日中外で鎖につないで飼っていました。さらに悪いことに、小さな檻に入れられていました。若い人達は私たちの犬をなでたがりましたが、お年寄りの人達は、犬を避けるように道を横断したり、犬が近くの畑を首輪なしで散歩しているのを見て、顔をしかめたりしていました。

アメリカの街中でも公共の場では、犬に鎖をするのはあたりまえです。しかし、田舎で飼い主のそばで鎖につながず歩くことは、異常な光景ではありません。犬はずっと「人間の一番の友達」で、家族の一員でした。買い物やジョギングも一緒で、時にはベッドのそばで寝ることさえもありました。ですから、私が初めて日本に来たとき、人間と犬との違った関係を見て、戸惑いました。

日本には犬と人間の交流に、二つの対照的な側面があるように思えます。ひとつは、犬は番犬だという考えが、まだ田舎では一般的にあると思われます。鎖につながれ、家の中に入れません。そして、恐れられ、さもなければ警戒されます。その恐怖心は悪循環を招きます。鎖につながれ、ぶたれる動物はしばしば人間を敵対するようになり、人間の恐怖心をあおるようになります。

しかし、一方では犬を甘やかしたり、家族の一員としたり、ステイタス・シンボルにさえする傾向が見られます。犬に対する態度は、特に大都会では、急速に変わりつつあります。ニューヨークタイムズの記事によると、日本のペットとしての犬の数は、ここ10年間で2倍になり、今では12歳以下の子供よりも多いのです。

片や、一歩も家の中に入ったことのない番犬は、鎖につながれたままです。片や、犬のためのカフェ、デザイナーブランドによる犬の洋服、犬用老人ホームに犬用ホテルがあります。どうしてこれらが共存しているのでしょうか。日本では両極端で絡み合っているように思えます。どちらの方法も、アメリカで育った私の犬に対する考えと合いません。

アニマルレフュージ関西(ARK)によれば、戦前までは日本でも犬は鎖につなぎませんでした。有名なハチ公を例にとりましょう。主人が亡くなった後10年間も、主人に会えるのではという希望を持って毎日駅に通い続けました。ハチ公が鎖につながれていない犬だから、この物語は成り立つのです。

ARKによれば、戦後公衆衛生と安全を向上させるため、犬の管理が厳しくなりました。狂犬病をなくすため多くの犬が殺され、犬への恐怖心が増大しました。近年、犬をペットとして飼うことが流行となり、再び犬との接し方が変化しています。この歴史を知り、どんなに私たちの犬が可愛くて穏やかでも、犬を避けている人々に私は同情します。

現在、慶太、リップ、私は、三重県南西部の端の小さな町に住んでいます。我が家は、かんきつ類の果樹園に囲まれた砂利道の一番奥にあります。リップは家の前にある庭で好きなようにひなたぼっこをしています。運がよければ、時たま近くの森で猿を追いかけています。近所の人は彼女を受け入れています。慶太とリップは結局最後までリードをつけない約束を守れそうです。

文:ウィニフレッド・バード

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