日本をより理解するための傑作記事(ひらがなタイムズ誌面より)
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世界に影響を与えた映画
「東京物語」に見られる日本人の心

日本の祝日に「敬老の日」(9月の第三月曜日)がある。長きにわたり社会に貢献してきた高齢の方々を敬い、長寿を祝福する日だ。そんな時期にちなみ、老夫婦が主人公の日本映画、『東京物語』(1953年、監督:小津安二郎)を紹介したい。

広島県、尾道に住む老夫婦が、東京で暮らす子どもたちを訪ねる。戦災から復興を遂げ、日本全体が高度経済成長に入る直前の時代である。現在では東京から広島までは新幹線で約4時間半だが、老夫婦にとってこの頃の長旅は過酷だ。いざ訪ねてみると、実の子どもたちはそっけない。

しかし、戦死した息子の嫁、紀子は心から老夫婦をもてなす。二人に東京を案内しようと、上司に休みを取りたいとお願いしたり、夕食に出すお酒がなくて、近所に借りにいったりと、健気な紀子の様子を、カメラは淡々と捉える。決して広くない部屋に招きいれられた老夫婦は、戦死して8年経った今でも飾られている息子の写真に気づく。

老夫婦に「あなたはいい人だ」と言われると、紀子は「そんなことありません」と答える。「どうか息子のことは忘れてほしい、あなたのようないい人がいつまでも一人でいると心苦しくて……」。「私はそんないい人間じゃありません。そんな風に言っていただくと、私の方が心苦しいです」。

このような会話が老夫婦と紀子の間で流れる。ゆっくりと丁寧な日本語。その美しい響き。このテンポで、この言葉遣いを耳にすることは、今ではなくなってしまった。紀子の仕草や台詞には、「大和撫子」と呼ばれた日本女性の奥ゆかしい美しさがある。この映画を通して、日本人がかつて大切にしてきた精神性とは何なのかを、感覚的に知ることができるだろう。

小津監督の作品の多くはさりげない日常生活を描いたものだ。戦前から戦後の過渡期に、日本人が急速に失っていった情緒や精神性を表現した映像は、世界中の多くの人々に影響を与えた。『東京物語』は小津監督の最高傑作の一つといってもよい。

フランス映画祭(2007年3月)で来日した、フランス人のレジス・ヴァルニエ監督は、「私は、映画を通して、日本を学んできました。『東京物語』では、日本の日常生活を覗くこともできれば、日本の魂というべき、奥深い心の部分、その両方を知ることができます」と語る。

ドイツのヴィム・ヴェンダース監督は、『東京画』(1985年)という作品の冒頭とラストに、『東京物語』のシーンを使い、大きく変わった80年代の東京を紹介している。「大和撫子」などに見られた日本人の、人を立てる控えめな態度や精神性は、日本の若者たちにとって、過去のものになりつつあるのかもしれない。

それでも、電車の中で、迷いながら、照れながら、お年寄りに席を譲る若者たちを見ると、『東京物語』に見られる日本人の心はそんなに簡単には消えていかないだろう、とも感じる。

文:田中明花

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