日本をより理解するための傑作記事(ひらがなタイムズ誌面より)
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江戸時代のロボットの「技」を今に伝えるからくり師

日本からくり研究会 理事長
東野 進さん

世界でも有数のロボット大国、日本。今や産業技術はもちろん、アニメや映画など芸術分野でも脚光を浴び始めている。日本が誇るロボット技術は、18世紀中頃、西欧から「南蛮文化」が伝来した時に種が蒔かれた。現代の産業科学技術の基礎は、江戸時代に花開いた仕掛け、つまり「からくり」にあるといわれる。

愛らしく微笑みながらお茶を運んでくる女性をイメージして作られた「茶運び人形」は代表的なからくり人形として知られている。「弓曳童子」は、4本の矢をつがえ、的にあてると得意気な表情さえ見せる。弓を曳く時や、腕を戻した時の細かな首の動き、矢をつがえる様子が巧みに表現されている。これらは人間が一切手をかけない、「自動からくり」と呼ばれる傑作品だ。

中でも最高傑作は、筆に墨を付けて目の前の紙に文字を書く「文字書き人形」。書いた字は客が見えるよう、紙が反転するというサービス付きだ。江戸時代の天才からくり師とよばれた、「からくり儀右衛門」こと田中久重の作品だ。その精巧さに驚かされながら、思わず微笑んでしまうたまらない魅力がある。

これらの作品は、江戸時代、久重らによって日本で生まれた。その後日本を離れ、外国人の手に渡ったこともある。「文字書き人形」は、アメリカの手品師が所有していた。彼は、手を尽くして修復作業に取り組んだが、精密な仕組みの厚い壁の前に断念。人形は150年ぶりに日本へ里帰りした。帰ってきた先は、大阪のからくり研究家、東野進さんの工房だった。

日本からくり研究会の理事長である東野さんは、現代日本のからくり研究における第一人者。幼い頃から骨董品が好きだった。手先が器用だったので、骨董品を集めては手をかけて修復してきた。結婚後は、「一軒家が買えるところを、家族に頭を下げて、どうにか我慢してもらい、なんとか買いつけた最高級の骨董品もありました」というほど、からくり、骨董の道をまっしぐらに走ってきた。

「全身全霊と全財産をかけてきた」と言うその人生は「からくり儀右衛門」、田中久重の好奇心旺盛な探求、発掘人生そのもの。まさに、久重の人生を今に生きる、現代のからくり師だ。自分のところへやってくる久重の作品を分解すると、東野さんでさえ、仕組みの精巧さ、巧妙さに舌を巻くという。「文字書き人形」では、「寿」という文字を書くのに3枚のカムを用いていることがわかった。東野さんの完全修復により、今では「松、竹、梅」が加えられ、4文字を書くまでにいたった。

「修復が一番大変な作業なんです」と、東野さんは言う。ほとんどの作品は損傷が激しく、中には原型を想像するのも難しい作品もある。でも、「久重の優れた技術に対して、半端な修復はできない」。首の動きなど、様々な角度から微調整を繰り返し、失われた部分を想像しながら試作品を何十と作り、試す。小道具や衣装にも、象牙、絹、金、漆など厳選した材料を使用する。

久重は天文学、医学、暦学など、伝来した蘭学を学んだ。数多くの発明をし、祭礼や神事、そして一般大衆のための興行からくり人形を製作していた。次第に久重は、「この技術と情熱を、人々の生活に役立てたい」と研究を進めるようになる。そして久重の仕事は、和時計や無尽灯、蒸気船にまで至る。この彼の技術が、後の日本の代表的メーカーの一つ、東芝の礎となったことはあまり知られていない。

東野さんいわく、これらの作品が海外へ流出してしまった事実が物語るように、「国や技術者自身が、江戸のからくりの高い技術をきちんと伝承してこなかった」のだという。伝承されていれば、日本の産業技術の発展がもっと早くに起こっていたばかりではなく、「茶道や華道、舞踊のように由緒ある伝統文化の一つとして確実に受け継がれていたでしょうね」と言う。

私達が現代、高性能ロボットを見て感動するように、当時の人々の目にからくり人形、機械は、さぞ斬新で革新的だっただろう。西欧技術をもとに、日本人の鋭い感性が微妙な表情や動作を生み出した日本のからくり。水、水銀、砂、ゼンマイなどで動くこれらのからくりは、それゆえ生まれる独特の間、雰囲気や顔の表情が、私達のロマンに訴えてくる。

「江戸時代の科学技術者は、渡来した技術を学び、応用して『自分のもの』にしていた」と東野さんは言う。彼らは、遊び心と探究心の中に独創性、感性をフル稼働させて、独自の「技」を加えた。これこそが、ものづくりのこだわりであり、原点である。まさに「今日の日本における、産業技術の礎になったのです」東野さんは誇らしげに言った。

日本からくり研究会
http://www.nippon-karakuri.com/

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