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ミュージカル「リトルプリンス」開幕秘話

音楽座のミュージカル「リトルプリンス」が今月から日本各地で公演される。「星の王子さま」(フランス人、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ作)をベースにしたミュージカルだが、その波乱に満ちた物語は上演前から始まっていた。「星の王子さま」は、児童文学でありながら、有名な言葉「大切なものは、目に見えない」など、大人への示唆に富む言葉が散りばめられている。全世界で5,000万部、日本では600万部が売られている大ベストセラーだ。

「リトルプリンス」の公演は今回が初めてではない。1993年、上演の幕が開くのを待つばかりだった音楽座に、サン=テグジュペリの著作権を管理するフランスのガリマール社から突然、ミュージカル化を了承していないという連絡が入った。音楽座はアメリカのエージェントから権利を得ていたが、その権利はもうなくなっているはずだという。

音楽座は大混乱に陥った。スタッフの必死の要望と問答を繰り返した末、音楽座には落度がなかったということで、この公演に限り認めるという回答を得た。ただし今後はどこの国のどの劇団にもミュージカル化を許可するつもりはないとの答えだった。そもそも、ミュージカルはアメリカから生まれた文化であり、原作にそぐわないというのだ。

こうして公演中止という最悪の事態だけは回避できた。関係者は、この公演を何とか成功させ、再演の道を開くべく全力を尽くすことにした。公演は文化庁芸術祭賞を受賞したほど好評だったが、音楽座からの再演の許可要請に対するガリマール社からの回答は全く変わらなかった。

それから1年。粘り強い交渉の末に、ガリマール社の担当者とサン=テグジュペリの遺族会代表を日本へ招待することに成功した。しかし彼らは、演劇的に飛行士と原作者を重ねたこと、プロローグ・エピローグを付け加えたこと、劇中での英単語やロック調の音楽がブロードウェイミュージカルを連想させるなど、細部にまで原作と異なる点を指摘した。

その指摘は、「星の王子さま」が東洋人にもフィットするように、新しい解釈を加えたオリジナル作品を作りたい音楽座には受け入れがたいものだった。音楽座の作品は、一般の劇団のように一人の脚本家や演出家に依頼するのではなく、相川レイ子代表自らがチームを動かして脚本を創作し演出する、「ワームホールプロジェクト」というユニークな方法で作られる。

ガリマール社との話が行き詰まったとき、これまで通訳を通じて交渉していた相川代表が突然言った。「私が直接話す」。そして、相手の目を見据え、作品への熱い思いを日本語で遺族会の代表に語った。それが遺族会のかたくなな態度を和らげた。そして、奇跡が起きた。「我々の思いは、あなたと同じだ」と、うなずいたのである。

フランスをも揺るがした阪神・淡路大震災
一筋の光明が見えた――彼らの帰国後、できるだけ原作に近づけた台本を送った。しかし、それでも、原作と異なると、彼らは許可しなかった。そのやり取りが長く続き、プロジェクトメンバーを戸惑わせた。制作はもはや無理と思われたとき、阪神・淡路大震災が起きた。1995年1月17日のことだ。その月の末、一通の手紙が音楽座のオフィスに届いた。

その手紙は、震災で息子と娘を亡くした父親からのものだった。音楽座ファンで子供たちにも観覧させていたという。「リトルプリンス」は子供たちにとって初めて体験し、感動したミュージカルだった。棺には、子供たちを旅立たせるための衣裳に星の王子さまのアップリケを縫いつけ、ミュージカルの歌詞を書いたカードを入れた。手紙には「二人は星になって、私たちを見守ってくれるでしょう」と、リトルプリンスと重なる言葉が綴られていた。

それは、プロジェクトメンバーの「いつかもう一度」が、「どうしてもやるのだ」という思いに変わった瞬間だった。急ピッチで再プランがなされ、作曲家や担当プロデューサーらがパリへ飛んだ。この渡仏によって状況は好転、ついに独占ミュージカル化権と上演権を獲得したのである。それは世界唯一のものであった。しかし一方では、舞台は原作により近づけなければならないという厳しい制約を受けてしまった。

原作の著作権が切れた今回の公演は、その制約がとれ、本来描きたかった作品に新解釈を加えたものとなっている。サン=テグジュペリの足跡から感じられる作品の意図を表現したものだ。布一枚で砂漠を表現するなど斬新な演出で評判となった98年の公演を、さらに進化させたものといえよう。王子役には、新人の野田久美子を大抜擢した。

「王子役と聞いたとき、最初、私で務まるかと不安でしたが、すぐに、やってやるぞという気持ちになりました。王子さまは、人間ではなく魂のようなものだと私は思います。たいへん奥が深いですね。舞台では私の笑い声に注目して欲しい」と野田さんは微笑む。リトルプリンス物語は新しいメンバーと共に舞台に移った――いよいよその本番の幕が開く。

音楽座
www.ongakuza-musical.com

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