日本をより理解するための傑作記事(ひらがなタイムズ誌面より)
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落語を世界に広める才色兼備の学者

英語落語プロデューサー 大島 希巳江さん

一口に日本文化といってもいろいろあるが、落語を知っている外国人は少ないに違いない。落語は舞台に座って行う一人コメディで、日本人のコメディの原点ともいえる。落語専用の劇場まであり、庶民の日常生活に根付いている。しかし、生け花や折り紙などのように視覚で表現できないことから、他の日本文化より外国人には普及しにくい。

この落語を世界に広めようとしているのが、大島希巳江さん。文京学院大学の専任講師で、教育学(社会言語学)博士。こう書くと、非常にお堅い人物を想像させるが、実は、学生かと思うほどの若々しい女性。しかも美人だ。この女性が、英語落語をプロデュースし、自らが演じる。このギャップ自体が彼女のユニークさを際立たせている。

希巳江さんが、そもそも英語落語を始めたきっかけは、1996年、アメリカで開かれた国際ユーモア学会に、日本人の学者として初めて出席したときのことだ。「日本の笑いについて何か発表するべきだと言われたのがきっかけです」と、希巳江さんは思い浮かべる。

落語の翻訳から海外の会場手配まで、全部一人でやり遂げる
彼女はアメリカの高校へ行き、アメリカの大学で学んだ。帰国後は奨学金を得てICUの大学院を卒業したが、専門分野は一貫して異文化コミュニケーションだった。希巳江さんは学会での言葉に触発され、日本人のイメージを払拭し、世界を笑わせてやろうと、1997年に英語落語を立ち上げた。

最初に参加してくれたのは笑福亭鶴笑さん。「日本語でやりました。あらかじめ英語の字幕カードを用意して、私が話の進行に合わせてめくっていったんです。でも、何か違う感じがして、途中の公演から逐次通訳をしたのですが、これもしっくりときませんでしたね」。

公演としては受けたのだか、納得いかない希巳江さんは、落語家に英語を教え、自らも落語を演じる決意をした。それからというものは、希巳江さんは大忙しとなった。落語を勉強し、翻訳し、それを音に吹き込み、それを落語家に練習してもらい、自らも落語の練習をした。

落語には、語呂合わせのジョークが多く、翻訳は簡単にいかない。「その部分は、強引に英語で作り上げます。オリジナルとは大分違ったものになりますので、翻訳というより、創作する感じですね」。英語の分からない落語家が英語落語に挑戦するのは、外国へ行ってみたい、外国人にも笑わせることができるという喜びからだという。「落語家の暗記する能力は大変なものです」と希巳江さんは感嘆する。

そして、翌年の1998年には早くも第一回の海外公演を、母校のアメリカコロラド州立大学ボルダー校を始め、数ヵ所の大学で実施した。海外公演は、年を重ねるにつれ、アメリカのほか、アジア、オーストラリア、ヨーロッパなどでも行われたが、その会場の手配から、スポンサー探しまで、希巳江さんが全部自分でやる。

「海外の日本人会や日本語学部のある大学など、落語に興味がありそうな団体に方っ端からあたります。それが決まるとスポンサー探しです。現地の日系企業などにあたります。航空会社やホテルとタイアップし経費を浮かせたりもします」。最初は落語家へのギャラを希巳江さんが自腹で払っていたが、今は、国際交流基金の助成金などもある。

日本人とは笑う部分が違う
海外公演での外国の観客は日本と比べ、若い人や家族連れが多い。どこでも大成功だが、日本人とは笑う部分が違うという。「たとえば、有名な落語に「時そば」(関西では「時うどん」)という話がありますが、その中で、落語家がそばを食べる音を出す場面があります。これに外国人は大笑いするんです。何というマナーかと驚くとともに、そんなことが許されている日本文化は面白い。日本へ行って、やってみたいという人が、アンケート調査でも多いんです」。

意外なところで笑う外国の観客に対して、演者の方がびっくりしてしまうが、落語家が途中で話を止めることができないのだという。「落語家は英語の意味を分かっていません。ただ記号として暗記しているので、とにかくマイペースでやるしかないんです」と希巳江さんは笑う。公演が終わると、観客からサインを求められるが、落語家は一切英語を話さない。英語で落語を聞いた観客は不思議に思うそうだ。「でも、今では、みんなだいぶ話せるようになりましたね」と、希巳江さんは彼らの努力に感心する。

公演は日本でも年に2〜3回行っているが、今では企業や学校、財団などから年に40回〜50回ほどの講演依頼があり、うれしい悲鳴を上げている。「今、もう一度同じことをやれといわれてもできませんね」と、希巳江さんは苦しかった頃を思い出す。英語落語は彼女が一人で作りあげたといっても過言ではない。「英語落語は異文化コミュニケーションの現場です。これが、学者としての理論付けに役立っています」。

現在、NHK国際放送局“Hello from Tokyo”にレギュラー出演。希巳江さんの大学では英語落語が科目にもなった。順風満帆の彼女にこれからの抱負を尋ねると、「『ラクゴ』が、『スシ』のように、オックスフォード辞典に掲載されることですね」と答えた。そして、「笑いは世界平和に貢献するんです。笑いながら人を殴ることもできないし、笑っている人を殴ることはできません。笑いは敵対心をなくす効果があるのです」と、笑った。

http://www.english-rakugo.com

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